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  ◎ 経済再生のキーワードはエンジニアリング力
      =寺島実郎氏が「14年日本経済の進路」講演=
 
  三井住友銀行・SMBC経営懇話会は2月14日寺島実郎三井物産戦略
研究所所長を講師に招き、「平成14年 日本経済の進路」と題する講
演会をホテルニューオータニで開催した。寺島所長は、日本経済につい
て「世界に取り残されており、高度な戦略性を回復し国家の威信と民族
の誇りを取り戻せるかどうかの瀬戸際」との認識を示し、産業の空洞化
に立ち向かうために内外の需要バランスがとれる経済施策の必要性を強
調。キーワードはエンジニアリング力とし、経済再生化の具体的方策の
例として、成田空港と羽田空港を直接結ぶ道路の建設 羽田空港の国際
化、東京湾縦断道路の再活性化などを挙げた。
 また、都市再生に関しては、マンションの老朽化問題を例にとり、今
後はNPO型の組織の存在が不可欠との考え方を示した。
 一方、日本経済に強い影響力を持つアメリカ経済については「今はマ
ネーゲーム経済だ」と指摘し、日本が同じ土俵にのらないよう警鐘を鳴
らした。  
《寺島実郎氏の講演要旨》
     
 ※ 世界から取残されているのは日本経済だけ


 2000年の世界全体の経済成長率(GDP)は3・8%。GDP始
まって以来の好況の同時化が進行。アメリカが20世紀に実現してきた
成長率は2・1%なので、3・8%の成長率は途方もない数値だ。こう
したなかで日本だけが取残されている。好況の同時化はアメリカを震源
地にITブームが引張っていった。
 ところが2001年になると経済の失速感が漂いはじめ、これに同時
多発テロが追い討ちをかけ、世界同時不況になった。日本が救いなのは
アジアがいいことだ。中国は昨年7・3%成長、今年も7・2%の成長
を維持する。インドもいい。昨年4・8%、今年5・8%。北東アジア
は堅調。香港、台湾はマイナス成長から1・8%成長に。韓国は2%成
長から4%成長にのってくる。東南アジア(アセアン諸国)は1・8%
から2・6%の成長となる。ロシア(セントラルヨーロッパ)は堅調。
欧州は1・5%成長。アメリカはU字型回復基調にある。大問題は日本
で、世界から取残されている。        ※ 2050年には3人に1人以上が老人
 エコノミスト予測は半分以上当たらないが、いやでも当たる予測があ
る。人口予測である。日本にとってきわどく、いきをのむ予測だ。日本
は百年前は4、400万人、この百年で人口は3倍に。大きな戦争をは
さんでいることなどを考えると、まさにミラクルな百年だ。予測による
と2006年人口はピークに達し、その後つるべ落としで、2050年
には1億人を割る。2100年には5〜6,000万人に落ちる。65
歳以上老人の割合は2050年には35・7%、3人に1人以上が老人
となる。人口構造の成熟化が急速なスピードで進んでいる。
 中国は現在、12億7、000万人で、日本の約10倍。一人っ子政
策を取っていても2050年には20億人を超える。日本は1対20で
中国に向き合うことになる。   (空洞化の問題)
 日本は中国に生産力をシフトしている。工場を中国に移している。中
国の労働コストは欧米の20分の1。中国の労働力コストはこれから高
くなるとの予測があるが、高くはならない。農村部に9億人がスタンバ
イしている。これが工業生産力を吸収する。まさにブラックボックス。
日本は逆に人口構造成熟化により生産力は緩慢になり、衰亡の危機に貧
する。高度な経済戦略性を回復し、国家の威信と民族の誇りを取り戻せ
るかどうかの瀬戸際にたっている。        ※ 9・11テロ事件は世界観、人生観を変える
 9・11の同時多発テロ以降、世界がどう変わっているかの認識を持
たないと何も見えてこない。冷戦後10年、21世紀の方向性のイメー
ジはあった。国境が無くなり、自由に移動できるというグローバル化へ
の認識を持っていた。IT革命の潮流の中にあると。ITプラスグロー
バル化イコール新資本主義に入るとのイメージだ。冷戦が終りに2極間
支配が崩れ、市場経済が参入し大競争時代がやってくる。規制緩和、改
革開放の時代になると多くのエコノミストは声を揃えていた。この時代
認識に対し9・11事件は頭をぶち割った。シリコンバレーに代表され
るアメリカ型社会になる開かれた社会、グローバル化のイメージが吹き
飛んだ。事件後はむなしさ、心の傷が深い。嫌なものを見てしまった。
日本も治安が悪化している。ピッキングが取り締まれない。開かれた社
会の逆説をつかれている。同時多発テロは世界中に1時間で伝わった。
何回もみせられトラウマになっている人もいる。
 それから5か月経過しどうなっているか。アメリカはしたたかで、新
しいビジネスモデルの芽が出始めている。ベンチャーファンドで、1つ
はセキュリティ、もう1つはヒューマニティーだ。
 空港の安全。炭そ菌、プラスティック爆弾などは今までの空港チェッ
クではだめ。バイオセンサーや生物科学に反応するセンサー等の技術開
発が必要。スチュワーデスの役割、仕事内容も変わる。コックピットに
入れない研修が必要。コックピットに侵入できない強靭な素材の開発も
必要だ。
 次にヒューマニティーだ。テロ事件で人生観が変わった人が多い。ス
ゥイート、タバコが売れた。禁煙して何になる。ダイエットして何にな
る。哲学、思想、宗教等の本が売れている。イタリアが発信源の「ゆっ
くり飯を食おう」が流行り出した。ファーストフードはダメ。ライフス
タイルそのものが間違いであったと。        ※ エンロンの倒産はマネーゲーム経済に警鐘  
 ビジネス現場ではテロ事件と同じくらい大変な出来事は12月2日の
エンロン社の崩壊。エンロンは90年型アメリカビジネスの象徴。19
87年に誕生のテキサスパイプライン会社。昨年全米7位の会社にな
る。ライフラインのものでさえ投機の対象にした。マネーゲーム経済の
基本となる。エンロン問題は根が深い。会計の専門家等がついており、
経営の透明化や会社の説明責任などを主張しながらも、いいかげんな経
営をしていたことが明らかになった。
 冷戦後、アメリカ産業は基本性格を変えた。マネーゲームとなった。
実体経済積み上げてきたものから、株、為替だけで経済を語る現象が定
着しはじめた。
 冷戦まではアメリカ経済は一言で言って「軍事産業」。軍事予算が産
業を育てた。花形は宇宙航空産業。冷戦後は産業基盤を平和産業に。軍
事産業は合併、リストラ等合しょうの大連呼。多くの有名企業が消えて
いった。冷戦まで大学理工系学生の8割は軍事産業にいっていたが、い
ま彼等を吸収しているのは銀行でない直接金融。オンラインネット、I
Tで武装した金融へ。アメリカは個人資産の5割は株式市況。日本は1
割。ウォールストリートで飯を食う。株が崩れると全部を失うマネーゲ
ームの病気にかかっている。これでは世界の出来事に真剣に関与しよう
ということはない。アメリカの利害が第一。金にできるものはすべてビ
ジネスモデルにする。90年型ビジネスモデルの疑惑が高まっている。        ※ 空洞化でなく内外需要バランスを図れ
 日本は不良債券問題をことさら問題化している構造が問題だ。アメリ
カは金融に軸足をおいているので、金融不安に過敏になっている。同じ
土俵にのらないことが大事。日本産業はバランスの良い産業を取り戻さ
ないといけない。マネーゲーム産業ではない。百年間で人口が3倍にな
り、製造業、農林水産業、建設業など、きまじめにものをつくることで
基盤を築いてきた。この10年間輸出で4、800億ドル外貨かせいだだ。
 外貨獲得の構造がどうなっているのかを分析すると、日本の姿が
見えてくる。外貨獲得の1位は自動車、2位は半導体、3位は事務用品
機器………。上位10品目で外貨獲得の5割を占め、上位20品目で7
割を占める。これらの分野の企業は1ドル70円になっても生き延び
る。恐るべき戦略を持っている。雇用が1割で、7割の外貨を稼いでい
る。途方もない2重構造である。                 
 しかし、今、この20品目分野の企業に激震が走っている。「空洞
化」「グローバル化」であり、厳しい環境にさらされている。海外へシ
フトしている企業の比率は15%。アメリカは3割が海外にシフトして
いる。1カ所でも海外に工場を持っている会社は34・2%なので、こ
れからみると、アメリカ並の水準だ。               
 日本は15%の海外進出による空洞化で青息吐息だが、アメリカは空
洞化が問題になってない。何故か。アメリカは入ってくる人、企業等が
それ以上にある。日本は出ずっぱり。これは国際化ではない。今、日本
の輸出はいいときの半分となっており、2006年には貿易収支はゼロ
となろう。空洞化で輸出品目がなくなるのではないかとの懸念がある。
日本は人、もの、金、すべてがでずっぱりで、入ってこない。    
 これではいけない。人、もの、お金のバランスをとる。内外需要バラ
ンスがとれるものにしなくてはならない。人、ものをひきつけて発展す
べきだ。そのためにはエンジニアリング力が必要だ。個別案を集めて、
問題解決を図っていくことが重要だ。日本は一流なものを持っている。
人材、技術、お金。貿易黒字の累積金もあり、多くの金を貸している。        ※ 日本がダメなのは成田空港みれば解る  
 ただ、個別要素はいいものをいっぱいもっているが、総合戦略の企画
ができない。剣山をつくる力がない。プロジェクトエンジニアリング力
がない。                            
 日本がダメになっているのは成田空港を見ればいい。年26万回離着
陸しているのに4千メートル滑走路がまだ一つしかない。近隣国には少
なくとも3つはある。2020年には消音速機が飛び、ニューヨークー
成田間を5時間で結ぶのに、成田から東京まで3時間もかかっていては
どうしようもない。首都圏第3空港構想の話が出ている。羽田空港に4
千メートル滑走路一本つくることが決まりかけている。       
 新幹線開発技術を使えば成田ー羽田を30分で結ぶことができ、一体
管理することができる。また、東京湾縦断道路の川崎側に4千メートル
滑走路つくるなどして、東京湾縦断道路を再活性すればすごいことにな
る。5兆円の波及効果がある。経済戦略をやっていくべきだ。       ※ 都市再生にはNPO型の存在が不可欠
 ここ3〜4年日本経済を再生させるため議論は「インセンティブ論」
ばかりだ。税金を下げろ、金融緩和をしろ、財政緩和をしろ、公共投資
をしろ、財政出動しろ等。このインセンティブ論で、最近では口にしな
いが「地域振興券」をやったが、綱吉の生類憐れみの令以来のバカな施
策だ。後世、平成の人はバカ扱いされる。             
 プロジェクトをエンジニアリングする。ソーシャルエンジニアリング
重要である。社会工学面ではNPO型組織が重要である。環境、社会福
祉支えるし、雇用も創出し、社会政策コストを下げている。働く喜びも
生み出している。NPO型の存在は社会工学にとっても意味がある。都
市再生にもこれからは欠かせない存在となる。           
 マンションの老朽化問題を例にとるとよく解る。立替をしようにも何
人かが反対すればできない。スラム化する。公権力を使うわけにいかな
い。裁判も時間と金がかかる。NPO型の組織があると問題解決する。
区、市ごとに弁護士、スペシャリストなどを入れたNPOを組織すれ
ば、大人社会の落としどころができる。所有権は認めるが、地域の活性
化のため、公共性の重要さを説き、知恵を出し合って問題解決できる。
都市再生はNPO型のものが機能しないとうまくいかない。     
 都市計画に知恵を結集することは一種のエンジニアリングだ。知恵を
結集して問題解決を図ろう。キーワードはエンジニアリング力と思う。


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